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new books| June 19, 2008





Liam Gillick: Proxemics, Selected Writings (1988-2006) (Positions series)
author: Bovier, Lionel (ed.)
24 in b/w, 320 pp, 21 x 15 cm, paperback
English 2007

『Positions』は、世界的に活躍する現代美術作家であるリアム・ギリック/マイク・ケリー/ジョン・ミラー/トーマス・ローソン/デヴィッド・ロビンスによるテキストを、一人につき一冊にまとめたシリーズ。ひとりのアーティストという特異点から眺める過去20?30年の美術界のドキュメントである。 ここでは、『近接学』と題されたギリックの選集を取り上げる。作品において、テキストをさまざまな領域を調停するツールとしてコンセプチャルに用いてきたギリックだが、彼の純粋な文筆活動がまとめられたことは今までなかった。フィリップ・パレーノ/リクリット・ティラヴァニヤ/ホルヘ・パルド/ピエール・ユイグといった、1990年代にギリックとともに頭角を表した一連のアーティストたちを駆動した問題意識とは? 彼らを中心とする今日の批評的制作実践に、ローレンス・ウィナー/ジョン・バルデッサリ/フェリックス・ゴンザレス=トレスらはどのように影響を与えたのか? 「現場」に居合わせたギリックならではの鋭い視点でそうした問題が論じられる本書は、90年代に高まりを見せた新世代のコンセプチャル・アートを研究するうえで、欠かせない資料となるだろう。(奥村雄樹)



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Ideal Worlds New Romanticism in Contemporary Art
Weinhart, Martina (ed.)
Rainer Metzger, Beate Suntgen, Peter Doig, Laura Owens, Max Hollein (texts)
304 pp, 23.1 x 17 cm, hardcover
German/English 2005

ピーター・ドイグやローラ・オーウェンス、カレン・キリムニクといったすでにアートシーンでもてはやされている作家とともに、ウーヴェ・ヘンネケン、ハーネン・バスといった若手を加えた、ロマン主義精神を現在においてなおも湛えるフィギュラティヴな絵画群を中心とする「理想郷(Ideal world)--コンテンポラリーアートにおけるニューロマンチシズム」展のカタログ。絵画というジャンルの特性に起因するマーケットに対する親和性ゆえに、たとえばピーター・ドイグの作品は、消費にさらされるとともに彼の劣化コピーとも呼ぶべき作家・作品群を多く生み出している。こうした状況のなか、「理想郷」展は、彼らの作品を単に絵画伝統の復権と個人的な情感の表出が相俟った「ユートピア」のイメージと解釈するだけではなく、彼らの作品が宿すロマン主義の政治的側面にスポットをあてることによって90年代以降のフィギュラティヴな絵画を再考するひとつの試みである。マスメディアに流通するイメージをサンプリングすることによって成り立つ彼らの作品は、「ユートピア」の様相を装いつつも、訃報やテロの映像などによって取り囲まれた現代の視覚文化の負のイメージを抗い難く含み込んでおり、もはや「ユートピア」が崩壊したことに自覚的な「政治的イメージ」そのものであると言えるだろう。(筒井宏樹)






Eija-Liisa Ahtila
Paume, Jeu de (ed.)
Elisabeth Bronfen, Regis Durand, Doris Krystof (texts)
202 in color, 192 pp, 26.3 x 23.6 cm, paperback
German/English 2008

フィンランドのビデオアーティスト、エイヤ=リーサ・アハティラの回顧展カタログ。彼女は、映画の手法とともにマルチ・スクリーンのボキャブラリーを駆使し、鑑賞者を演劇的に映像の物語のなかへと誘い込む。そこで展開される物語は、光の欠如、メランコリー、精神錯乱といった北欧国家独特の精神性と深く結びついたものであり、ドキュメンタリー的な現実性と神秘的な虚構性が変転する上安定な世界のなかで、情動によって支配された登場人物たちによって織り成される「ヒューマン・ドラマ」である。さらに、登場人物たちの情動は、映像や音の効果と相まって知覚現象の戯れとして表現されることで、民族性を超えてあらゆる鑑賞者へと伝達されていく。しかしながら、近年の彼女の作品では、生と死、幼稚さと暴力性、共存と迫害といった、北欧的精神にとどまらない普遍的な概念に取り組みつつある点が興味深い。(筒井宏樹)






Avish Khebrehzadeh
Eccher, Danilo / Dreyfus, Laurence
96 pp, 24 x 17 cm, hardcover
Englsih/Italian 2007

イラン出身で現在ワシントンとローマを拠点に活動する作家アヴィシュ・ケブレザデ。彼女は、ローマでジォットとアルテ・ポーヴェラに影響を受け、またピエロ・デラ・フランチェスカの作品をモチーフにしたアニメーションや、デ・キリコを彷彿させる絵画を残している。彼女の今回の絵画には、還元あるいは誇張された人物モチーフや動物の形象が画面上に小さく浮かんでおり、それらはスタイルが抑制された素朴な描写で描かれているがゆえに、現代アートに支配的なアイロニーから解き放たれ、作家の直接的な感情が落とし込まれた図像(アイコン)となっている。詩的な情感の漂うこれらの作品の主題は、イラン革命以後の彼女の幼少期の記憶に基づいているものの、一面が深い青の瞑想的な背景とそこに浮かぶ簡素な図像によってのみ表現されているため、ここで語られる物語は、曖昧で断片的なものとならざるを得ない。しかしながらそのため、これらの作品を見る観賞者が感情移入する余地を残し、観賞者によって喚起された感情と想像力によって補填されることで、物語は完結されることとなるだろう。(筒井宏樹)